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仙台地方裁判所 昭和31年(行)17号 判決 1957年12月18日

原告 近岡卯吉

被告 仙台国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和三十一年八月二十一日付でなした所得税審査決定は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、

「(一) 新庄税務署長飯田頼之は、昭和三十年十一月三十日、原告の昭和二十七年度分の不動産所得を金十五万八千四百円、山林所得を金三百七十万一千三百四十二円とし、右に対する算出税額を金百八十八万五千三百三十円、無申告加算税額を金四十七万一千二百五十円と審査決定して、原告にこの旨通知した。

原告はこれを不服として、同年十二月二十三日付で同署長に再調査を請求し、同署長は翌二十四日これを受理したが、それから三ケ月以内にこれに対する決定をしないので、更に原告は同三十一年四月二日、被告に対し審査の請求をしたところ、被告は、同年八月二十二日、新庄税務署長の行つた前記決定は誤りがないとして、原告の右審査請求を棄却する決定をし、その決定は同月二十四日原告に対して通知された。

(二) しかし、原告には昭和二十七年度には、右新庄税務署長の決定したような山林所得は全く存しない。原告は、昭和二十年十月九日、武田庄五郎に対し当時原告所有であつた山形県最上郡稲舟村大字鳥越字権現堂千八百七十一番、三町一反歩の山林から杉立木二千五百三十五本、赤松立木千六百八十九本、落葉松立木二百四本を代金七万円で伐採搬出期限を同二十八年八月三十日として売り渡したことはあるが、この時以外に山林所得を得たことは全くない。従つて新庄税務署長の右決定は、不動産所得を金十五万八千四百円と査定した点については異議はないが、金三百七十万一千三百四十二円の山林所得があるとした点で、事実を誤認した違法があり、これを認容した被告の本件決定も違法であるから、本訴においてその取消を求める。」と述べ、

被告の主張事実に対し、

「仮りに、原告が被告主張のように、昭和二十七年十月九日、武田庄五郎に立木を売り渡したものであるとしても、当時、適正伐期齢級以上の立木千石の時価は、百二、三十万円にすぎなかつたから、被告主張のように四百三十五万円というような過大な代金で売買されることはあり得ない。」と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、

答弁として、

「原告主張事実中(一)は認め、(二)は否認する。

原告は、昭和二十七年十月九日、その所有の山形県最上郡稲舟村大字鳥越字権現堂千八百七十一番山林の立木を山形市上山家町二百四十七番地武田庄五郎に、代金四百三十五万円で売り渡し、同日右代金全額を受領した。よつて、右立木代金四百三十五万円を総収入金とし、これから当時施行の所得税法第十条の四第一項及び資産再評価法第九条により、みなされた再評価価額金五十四万八千六百五十八円を控除し、更に所得税法第九条本文により、金十万円を控除した残額金三百七十万一千三百四十二円が、昭和二十七年度分の原告の山林所得である。更に、同年度分の原告の不動産所得金額は、金十五万八千四百円であるから、同年度分の原告の総所得金額は右の合計金三百八十五万九千七百四十二円であり、これに対する算出税額は金百八十八万五千三百三十円となるが、原告は同年度分所得税の確定申告書を提出せず、且つ、提出しないことについて正当な事由が存しないから、所得税法第五十七条第三項により、右本税に対し、百分の二十五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税金四十七万一千二百五十円をも、右本税とあわせ徴収すべきこととなる。従つて、原告主張の新庄税務署長の決定及びこれを支持した被告の決定は相当であつて、原告の請求は全く失当である。」と述べた。

(立証省略)

理由

新庄税務署長飯田頼之が昭和三十年十一月三十日、原告の昭和二十七年度の不動産所得を金十五万八千四百円、山林所得を金三百七十万一千三百四十二円とし、右に対する算出税額を金百八十八万五千三百三十円、無申告加算税額を金四十七万一千二百五十円と審査決定して、原告にこの旨通知したこと、原告がこれを不服として、同年十二月二十三日付で同署長に再調査を請求し、同署長は、翌二十四日これを受理しながら、三ケ月以内にこれに対する決定をしないので、原告が、同三十一年四月二日、被告に対して審査の請求をしたところ、被告は同年八月二十二日、右署長の決定は誤りがないものとして、原告の右審査請求を棄却する決定をし、同二十四日原告にその通知をしたことは当事者間に争いがない。

証人武田庄五郎、海谷長雄の証言により成立を認める甲第六、七号証、その方式及び趣旨により真正に成立したものと認める乙第一号証の一、証人武田庄五郎の証言により成立を認める同号証の三、証人保科弘の証言により成立を認める乙第七号証の一、二、三及び成立に争いない乙第二ないし第六号証並びに証人武田庄五郎、海谷長雄の証言を綜合すると次のような事実が認められる。

即ち、昭和二十七年九月頃、製材業を営む武田庄五郎は、半田治郎兵衛から、原告所有の山形県最上郡稲舟村大字鳥越字権現堂千八百七十一番山林三町一反歩の立木を買い受けることをすゝめられ、同月二十七、八日頃、右山林を一応下検分し、更に同年十月三日頃、毎木調査をした上、同月四、五日頃、新庄市内の原告の別宅において原告と折衝の結果、右立木を代金四百三十五万円で買い受けることに下相談がまとまつた。そこで武田は同月九日、山形市七日町、株式会社両羽銀行本店から現金三百万円を借り受け、他から調達したものと合して現金四百四十万円を持参して原告の前記別宅に至り、仲介人半田及び武田の使用人海谷長雄立会の下に、原告と正式に前記山林の杉二千五百三十五本、赤松千六百八十九本、落葉松二百四本を代金四百三十五万円で、伐採搬出期限を昭和二十八年八月三十日として買い受ける旨の契約を締結し、その場で、代金四百三十五万円を原告に支払つた。この際、原告が武田に契約の日付を昭和二十年十月九日、売買代金を金七万円と記載した武田宛の立木売渡証(甲第六号証)を手渡したので、武田は、日付、金額の相違を指摘し、「代金四百三十五万円のものを代金七万円ではあまりにひどい。あとで税務署に知れたら困るではないか。」と詰問したところ、原告は、「あなたには迷惑はかけない。立木さえ間違いなく引き渡せばよいではないか。」と言うので、武田は、それ以上深く追及せず、昭和二十年十月九日付代金七万円と記載した買受人武田、立会人半田名義の原告宛「昭和二十年十月九日付立木売買ニ関スル請書」(甲第七号証)を作成して原告に交付した。そして、武田が製材業を始めたのは昭和二十二年七月一日であり、海谷が同人方で働くようになつたのは、昭和二十三年からであつて、武田は、昭和二十年当時は原木を買い入れたことはないし、その必要もなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人半田治郎兵の証言及び原告本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定に反する証拠は存しない。

右事実によれば、昭和二十七年度において、原告にその所有山林の立木の譲渡による収入、金四百三十五万円があつたことが明らかであるが、当時施行の所得税法第九条第一項第七号、第十条の五第一項、資産再評価法第九条によつて右収入金額から控除すべき必要経費について、原告は何らの主張立証をしないから、右必要経費として被告の自認する金五十四万八千六百五十八円を前記収入金額から控除し、その残額から更に前記所得税法第九条第一項本文により控除すべき金十万円を控除した金額三百七十万一千三百四十二円が、原告の昭和二十七年度における山林所得金額である。そして同年度における原告の不動産所得が金十五万八千四百円であることは当事者間争いないから、新庄税務署長が同年度分の原告の山林所得及び不動産所得金額を右各金額と認定したのは相当である。

原告は、昭和二十七年度分所得税の確定申告書を提出せず、且つ、提出しないことについて正当な事由が存しないことは、その明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなし、同年度分の原告の総所得金額金三百八十五万九千七百四十二円に対する所得税を当時施行の所得税法第十二条、第十三条により、無申告加算税を同法第二十六条、第五十七条第三項、第六項、第五十五条第三項により、それぞれ算出すると、新庄税務署長決定の所得税額金百八十八万五千三百三十円、無申告加算税額金四十七万一千二百五十円との算定が正当であることは、計数上明らかである。

従つて、原告の昭和二十七年度分所得税に関する新庄税務署長の前記決定は相当であり、これを支持した被告の本件決定もまた相当であるから、この点の原告の主張は理由がない。

以上の理由によつて原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 桝田文郎 菊地信男)

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